桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

自転車 Season 2 - 皐月

5月の湖東は、ほのかに甘い風の香りがする。
収穫期を迎えた麦。風に身を任せて揺れるわ揺れる、スウィングしまくり。バックバンドは鳥のさえずり。一緒に踊ろっかな。こんな広大なステージはそうないで。

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黄金色の麦畑が広がる十字路が休憩地点。地面に寝っ転がって目を閉じ、自然の音を聞くのがマスターのいつものスタイル。土台にあるのはジャズ。なじみのジャズ喫茶のマスターによる「俺の道」サイクリング in 滋賀のシーズン到来。

 

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深夜のサイクリングで「田毎(たごと)の月」を見たのが昨年5月。水田に写りこむお月さんの数々に息を呑んだ。湖を埋め立ててできた田んぼは、さえぎるものがなくて、カエルの声の響きが街中とは違う。自然の音からジャズを感じ取る聴き方を、マスターと自転車に乗るようになって知った。


軽やかにいざない、
ふと目の前に現れる光景に、
思いがけない感動がある。
即興の凄み。

 

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今宵は雨降り、なのにお月さんが顔を見せた場面が何度かあった。
雨が上がって、夜更けの散歩。田んぼにはカエルバンド。ベース担当は低音のガマガエル。セッションには欠かせない存在で、マスターもジャズシンガーのタケウチさんも、まずはガマガエルの声を見つけにいく。


暗闇に佇み、耳が大きくなっていく。目を閉じて、辺り一帯に響き渡るカエルの声に集中していたら、ふいに空から高音が降ってきた。
鳥がセッションに入ってきたぞ。
姿は見えない。音で夜空に弧を描くように飛んでいる。その瞬間、今いる地球のレイヤーが変わった感じがした。普段は眠っている感覚が開いたのか、耳が鋭敏な気がする。
ジャズのルーツにある「アフリカのリズムは、こんな自然の音の中で生まれたんと違うかな」


滋賀で、アフリカの原初的な音に思いはせる。
「自然の音はいつまでも聴いていられるな」

マスターは「空っぽになって」、タケウチさんは「カエルになった気分で」自分がライブに臨む姿勢と重ね合わせていた。


19歳でジャズ喫茶を始め、74歳を迎えたマスター。真夜中に自転車に乗り、カエルの声を聞き始めたのは40歳から。何度も道に迷い、転びながら見つけた「俺の道」を今、案内してもらっている。


その道は、誰にも真似できないマスター独自のもの。
走る背中は、とても軽やか。
空っぽの境地は、こっち。

 

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