短編エッセイ集刊行
コロナ下で授賞式も取り止めになり、実感がわかないままでした。誤解を恐れずに言えば、家族や人生をテーマにエッセイを書くって自己満足に過ぎないんじゃないか。そんな斜に構えた気持ちも正直なところありました。じゃあ何で応募したのかといえば、そうせずにはいられない切実さが当時はありました。
書かないとどこにも残らない、誰にも伝わらない、いわば辺境の記憶。北米に移民のルーツがある母方の親族の物語を、私自身がアメリカに住んでいた頃の記憶とつなげて書きました。
本に収録された30作品はどれも面白かったです。話の内容は面白いの一言では到底済まされない濃密なものだけれど。それを短編エッセイで読む軽妙さがいいなと。
こんなことってあるのか、こんな人もいるんや、こんな展開になるとは、思わず、えっ!?と目を丸くしたりも。立派な人生譚じゃない作品が多いところに好感が持て、それぞれに書かずにはいられない何かが滲んでいるように思えました。
本という形で旅立つことができて、よかった。
書籍は全国の本屋さんで取り寄せてもらえます。(長谷川書店水無瀬駅前店では、さっそくお店に入れてくださいました。)ネット注文もできます。
耳の記憶がよみがえる
雑誌掲載:『AERA』「はたらく夫婦カンケイ」
『AERA』3/21号「はたらく夫婦カンケイ」で、青島工芸さんを取材しました。
大工の青島雄大さんと出会ったのは、工事現場。写真に関する多目的な活動の場RPS(Reminders Photography Stronghold)の京都分室パプロルのオープンに向けて、内装工事を手がける青島さんに教わりながら天然塗料を使った天井塗りを経験。青島さんの気さくな人柄やセンスの良さを感じ、何よりDIYの時間が楽しかった!
その後、妻でお直しデザイナーの橋本紗友里さんの不思議な瞬発力により、夫婦取材の運びになりました。手綱を握る橋本さんと、大工仕事以外に頓着がないという青島さんの夫婦関係。お二人の共通項は、手を動かしたものづくりを大事にしていることや、おじいちゃんやおばあちゃんの生きる知恵に対する敬意。そこがいいなとしみじみ思いました。
楠本涼さん撮影のお子さんと3人のポートレート写真は、ずっと眺めていたくなる味わいがあります。記事は後日ウェブにも載りますが、レイアウトされた誌面はやっぱりいいなと思います。
RPS(Reminders Photography Stronghold)京都分室パプロルは2022年4月にオープン予定。青島工芸さんの大工のものづくりから、写真のものづくりへとステージが移り、ものづくりの可能性が広がる面白い空間になると思います。
お店が生命線
"Here is Bebop, Izuru Azuma quartet"
雑誌掲載:『暮しの手帖』15号「わたしの手帖 オリジナルでいこう」
11月25日に発売日を迎えた『暮しの手帖』第5世紀15号。巻頭6ページの特集「わたしの手帖 オリジナルでいこう」の取材・文を担いました。
森岡素直さんと中井敦子さんとの出会いに心を突き動かされ、『暮しの手帖』に提案したのは、かれこれ1年ほど前のこと。初めから取材の関係だったわけではなく、二人とは個人の交流から始まりました。「わたしたち、そもそも夫婦じゃないしなあ。平仮名のふうふとも違う」。そう、二人が話していたことが、ずっと引っかかっていました。
子どもを授かり、これから親になろうとする二人は、自分たちの「かぞく」のありようの伝え方を模索し始めた時期。伝えることは「むしろ可能性だと思っている」と、あたらしい言葉をつくるところから始めている姿が、清々しく映りました。
編集者に企画案として伝えるのにあたり、二人と対話を重ねるなかで、これは命の物語だと感じていました。心にあったイメージは、片山令子さんの「惑星」というエッセイ。https://www.minatonohito.jp/book/369/
生まれたばかりの赤ちゃんのような原型に戻り、「あたらしいわたしがはじめからやり直される感じ」が、これからのありようと重なりました。
編集者が会いに来てくれたのが、昨年の今ごろ。それから誌面化に向けて動き出したのは、その半年後でした。巻頭の「わたしの手帖」に決めるまでの経緯を、北川さんは最新号発売のご挨拶の文中に書かれています。https://www.kurashi-no-techo.co.jp/blog/bookinfo/20211125
その半年のあいだに、お子さんが誕生。大きな変化のなか、私は二人と折々に語らい、メールでもやりとりし、共にいさせてもらいました。誌面化に結実するのか、その時点ではわからなかったけれど、二人とは、取材を越えた信頼関係が、いつしか育まれていました。
そこから、巻頭記事に決まり改めてインタビューをし、いざ「わたしの手帖」という、しぼられた文字数と写真で構成された、いわば「余白」の多い記事の「型」で表現するのはチャレンジでした。素直さんと敦子さんの思いをできるだけ汲みながら、中学生から90代までの幅広い読者に開いて文章を書く。その距離の遠さを、実際に執筆が始まってから痛感しました。
難しいテーマに突き当たることは、最初からわかっていたはず。だけど、考えることをあきらめない、言葉で伝えることをたやすく手放してはいけない。追い詰められたときに支えになったのは、信じる気持ち。取材を受けてくれた素直さんと敦子さん、編集者の北川さん、そして読んでくださる方に対して。赤ちゃんなのに、なんだか不思議と頼もしいお子さん、そんな子どもと心通わせるように撮影していた齋藤陽道さんの写真の魅力。
今回の記事が世に出ることは、個人の枠を越えて、皆で大きな伝えるということに取り組んだのだと思っています。記事を読んでくださった方が、隣にいる人と、語り合うきっかけになったらいいなと思います。
https://www.kurashi-no-techo.co.jp/honshi/c5_015.html