桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

自転車 Season 1 - 水無月

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月光浴をしながら、夜通し自転車で走った。ひっそりと静まる湖東の夜、お月さんが昇り日付けが変わる頃にスタート。案内してくれたのは、なじみのジャズ喫茶のマスター。

40になってから夜に滋賀をサイクリングするようになった。走りながら「オレの道」を開拓していき30年以上が経つ。


そのルートが粋だ。
民家を抜け、国道を横切り、田んぼに入っていく。ほらそこ、と指さす先には水田に映るお月さん。あちらにも、こちらにも。「田毎(たごと)の月」だ。稲が伸びる前の今の時期ならでは光景。

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暗闇の中、月明かりに照らされ、黒のグラデーションが織りなす。何層もの黒の深みに視界がぼやけていき、同時に五感が開いていく。景色が変わるたび、風のにおいも移り変わる。麦の甘さ、土の香ばしさ、大地のにおいと溶け合う。


あぜ道をぐんぐん進む。大勢のオスガエルがそれぞれに異なった音階、音調で求愛行動に励んでいる様子。鳥のさえずりも合わさり、さらにウシガエルの重低音も不規則に入る。一帯に響き渡る天然の即興演奏。始めから形作られていないのに、揃っていなくても、いい感じに音楽になっているのがジャズ、とマスター自身も共鳴して歌う。

自然とひとつになって。

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360度開けた土地に、田んぼが広がる十字路で休憩。寝転がると、もう星空しか見えない。夜空の向こうに吸い込まれ、自分がまるで輪郭だけになったような感覚を味わう。
明け方まで走った。圧倒されまくった。


何も遠くに行かなくても、時間と場所を変えるだけで、こんな世界が広がっているとは...!
私は今まで、世界の何を見てきたのかと、自分の感覚を疑う。
これが陰と陽なのか。理屈じゃなく、体感で知る。


マスターが自分の足で開拓した「オレの道」。本人じゃないと行けない道。それは、そのままマスターの生き方につながっている。
こんな世界を見せてもらったら、私も道を作りたくなってきた。空っぽな自分になって。

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