「今日はランディさんの誕生日やねん」
なじみになったジャズ喫茶。人が集うことが難しくなってきている社会状況下で、営業時間を短縮しながら気をつけて何とか開けておられる。先日行った時、「今日はランディさんの誕生日やねん」とマスターが教えてくれた。目の奥が輝いていた。
店内で、NYでのライブが収録された音源を聴かせてくれた。喫茶カウンターにいながら、耳からライブにいざなわれる。世界各地から集ったミュージシャン一人ひとりの紹介から始まって、ピアニストのランディ・ウェストンさんが登場。ライブ会場にいるかような臨場感で、思わず拍手する。
すると、店内にいたお客さん数人も力強く手をたたいていた。まるで皆、申し合わせたかのように。私も含め、一人で来店しているお客さんばかり。距離をとって座っている。互いに顔を見合わせた。笑顔が広がった。マスターもニコニコしていた。それからしばらく、演奏を聴き入った。
喫茶店の空間と、時も場所も超えてランディさんの音楽が重なったひととき。
後日、あの場を共有したお客さんと再会。「あのお店は、時々奇跡が起こる。あの日もそうだった」とその人は嬉しそうに語っていた。
ランディ・ウェストンさん、享年92歳。
直接は出会ったことはないけれど、このジャズ喫茶を通して、出会わせてもらっている感覚がある。その音楽に、ピアニストご本人に、ランディさんを愛する人たちに。一年半前に書かれたこの記事もそうだ。
世の中が劇的に変わっていく中で、大事にしたいもの、むしろこれから育んでいきたいものが、ここにある。
