桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

『三十三歳のジョバンニ』

小原一真さんの写真展「Exposure / Everlasting – 30年後に見えなくなるもの」が、Photogallery Sai(大阪市福島区)で開催中です。1カ月に渡る会期中には、さまざまなイベントが開かれていて、そのうちの一つの朗読会『三十三歳のジョバンニ』(管啓次郎さん×Kawoleさん)に行ってきました。
2月19日(火)19時からは同じ場所で、ロード・ドキュメンタリー映画『ほんとうのうた~朗読劇「銀河鉄道の夜」』(河合宏樹監督)の上映会と、小原さん(写真家)・片桐功敦さん(華道家)・桝郷(ライター)の3人でトークを行います。朗読会と19日のイベントは、ひとつながりの橋渡しのようにみえるので、まずは朗読会で感じたことをご紹介します。


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立春の日に開かれたこの会は、詩人の管啓次郎さんが『三十三歳のジョバンニ』を朗読し、ミュージシャンのKawoleさんが音楽を奏でるもの。物語は、宮澤賢治さんの『銀河鉄道の夜』を、2013年の福島県南相馬市に置き換えて作られている。33歳の一人の男性が別の土地から福島を訪れて、小さな旅を続ける中で思考を巡らせていく。
会場のPhotogallery Saiの古民家の空間から、2013年当時にタイムスリップした。それは、個の記憶の中で時間をさかのぼるというより、ひとつながりの大きな世界観へと視界が引っ張り上げられるような感覚だった。アリの目から鳥の目になって。
朗読の声を、音を、身体で受けとめていくうちに、登場人物の心の揺らぎと、自分の心情が次第に重なっていく。
そんなふうに、心の鏡に映し出されたもの。それは私の場合、あの時、福島県沿岸部に通っていたこと。たくさんの葛藤を抱えて、一時期書けなくなったこと。それから、再び書き始めたこと……。
あの頃でしか感じ取れなかったもの、見られなかった景色を、2019年の今、再び呼び覚まされた感覚になった。当時受け取りながらもそのままにしていたものがあり、それはずっと自分の中でうごめいていた。この5年、あえてそこから心の距離をとっていた。
それは悲痛な出来事に対して、当時の葛藤も、苦しさも、小さな喜びも、よく分からないものもすべてひっくるめて、当時から今につながる考えの糸口をずっと探し求めてきたのだと気づいた。
約90分の朗読のひとときは、私にとって、そんな体験となった。
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『三十三歳のジョバンニ』は、脚本に伴走する形で作られたもの。宮澤賢治さんの『銀河鉄道の夜』を小説家の古川日出男さんが戯曲化し、2011年以降、管さんと翻訳家の柴田元幸さん、音楽家の小島ケイタニーラブさんが出演し、各地で朗読劇が上演されています。その上演活動を追ったロード・ドキュメンタリー映画『ほんとうのうた~朗読劇「銀河鉄道の夜」』(河合宏樹監督)が、2月19日(火)19時から、小原さんの写真展の会場で上映されます。


上映後は、写真展主催の小原一真さんと、華道家の片桐功敦さん、桝郷の3人でトークを行います。平日の夜ではありますが、大阪の福島で、共に、ひとつながりの世界を感じられる場になればと思っています。


◎小原一真写真展「Exposure / Everlasting – 30年後に見えなくなるもの」2019年2月2日-3月3日 大阪市福島区フォトギャラリー・サイ

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