桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

くじら企画「海のホタル」

海の底に潜む人間ドラマを観た。くじら企画「海のホタル」という演劇作品。この社会を大海原にたとえるなら、普段は目に触れることがない、海の底深くに潜む人間の業をまざまざと見たような感覚。そこは光の当たらない場所で、どうしようもなく救いのない顛末に導かれた。
どこかで、この悲劇的な二重の結末をくい止めることができなかったのか…。観終わった後も引きずってしまう。そんな風に思考が巡るのは、これが実際に起きた事件を基に生み出された作品だから、というのが大きい。
色と欲にまみれた人間の行く末。それでも、完全に自分と切り離して見ることができないのは、登場人物の一人ひとりを紋切り型に加害者・被害者と分けるのではなく、どうしてこうなったのか、という複雑な要素の絡まりを、とても丹念に描いていることが伝わってきたから。


人間を描くって、こういうことなのかな。さぞ、過酷な作業だろうな。

作者の大竹野正典さんは、2005年上演時のパンフレットに、「最後にこの事件に関わった人々全てに心より祈りを捧げます」と綴っている。この方のまなざしの深さが気になった。大竹野さんが早世して10年になる2019年は、この「海のホタル」を皮切りに、大竹野さんの遺作を約20もの劇団が携わって、大阪をはじめ東京でも記念公演が展開されるそうだ。
ご本人が他界された後も、作品をつないでいこうと現在進行形で注力している有志の人たちがいる。有志の人たちを突き動かすものと、大竹野さんの作品に注がれるまなざしはつながっていて、それはご本人が亡くなって10年になる今でも生き続けている。その証に、目に見える形で出会えるのが、2019年の一年を通して上演される作品の数々になるのだろう。
次は、昭和の登山家・加藤文太郎と岳友・吉田富久の槍ヶ岳での厳冬期の遭難事故を描いた「山の声ーある登山家の追想」を観たいと思う。