桝郷春美のブログ

harumiday_桝郷春美のブログ

フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

ミクロな仕組み

やっと行けた水無瀬。町長選以来、約3カ月ぶりに訪れた島本町は、本来のゆるりとした空気に戻っていた。
みんなの心の拠り所になっている「はせしょ」こと長谷川書店水無瀬駅前店に浸り、選挙事務所から一転してコミュニティスペースの実験場として活動を始めたやまねこハウスへ。ここの拠点、住民じゃない私でも、思いを込めて語り部となって誰かを案内できると思う。

形にしていくことの頼もしさと、
そこにある・いるだけで安心できる存在と、
目に見えない大切にしたい何かを育んでいる場。


この町が好きな人たちによる関係とつながりは、織物みたいに柔らかくてしっかりしているように見える。そうとは気づかせないほどのさりげなさで、包まれるような心地になる。

 

f:id:harumasu:20211228190940j:plain
やまねこハウスでは、11日19時から開かれる「大人のための理科講座」の練習に立ち合った。講師は末岡友行さん。テーマは「水の不思議な性質」について。今ある水は、古代から循環しているH2Oだと知って、まどみちおさんの詩の世界観を思い出す。まどさんの詩集には、はせしょで出会った。
化学教師の末岡さん。目には見えないミクロな仕組みに関心があるのだという。町長選では、人の意識の何かを確実に揺さぶったのだと思う。選挙活動の最前線でがんばった友人も、ゆっくりと自分が本当に望む方へと舵をきろうとしている。
友人は教えてくれた。水無瀬には、昭和湯という地下水100%の銭湯があることを。
また行こう、わざわざ行こう、水無瀬の人、場、水の魅力を感じに。

 

f:id:harumasu:20211228191055j:plain

語らいのひとかけら

言葉に縛られなくていい、
ことばはもっと自由なはず。
産んだ人が自動的にお母さんになるわけではない。
産んでない方が自動的にお父さんでもない。
そんなかぞくの形だってあるよ。性がゆらいで生きている人だっている。どちらかではない、ただ、わたしはわたし。


か ぞ く
という風通しのよさを作り
わ た し
でいる自由を守っていく


それは二人が意志を持って周りの人たちと編んできたオリジナルな関係。
私は、羨ましいと思う。
まずは、自分が大事にしたいものを見定め、芯を育んでいく、その在り方が。


お母さん、お父さんという言葉はいつから作られたの? ネイティブアメリカンはこう、公家の言葉はこう、父母という言葉以前にさかのぼっておしゃべり。時間軸や言語を広げて想像すると、自由度も広がる。


今日は二人の子どもの6カ月のお誕生日。会った日に、その子が初めて発した言葉があった。
メイメイ
英語のMayに置き換えてみる。
してもいい、かもしれない、願い
の意味。


この か ぞ く となら、できるかもしれない。
共に、ことばを編んでいく。ふうっとね。

f:id:harumasu:20211228155657j:plain

木曜ごはん

にゃんだ、この幸福感の漂いは。
なじみのジャズ喫茶。おなかを空かせたノラ猫のように店内へ入った。このお店の常連になる特におっちゃんたちは、なぜかそんな人が多い。私も自覚がないままに、その仲間入りしていたと気づいたのは最近のこと。


扉を開けて中に入ったら、大きな兄さんと弟(と勝手に呼んでいる)がとろけそうな表情で食べ終えたばかりの夜ごはんの余韻に浸り、語り合っていた。話題はミチヨさんお手製のごはんが、いかにおいしかったか、だ。


大きな兄さんは、かれこれ約25年超の常連さん、ヤマダくん。弟はインドネシアから来た留学生、エルビン。弟はごはんを楽しみに、食べに来る日はお昼を抜くのだという。そんな青年に、マスターは気前よくご飯をおかわりさせて、ミチヨさんはさりげなくスクールライフを気にかけている。自分が異国に住んでいて、こんなお店と出会ったら心強いだろうな。エルビンのはじける笑顔を見て、そう思う。


普段から、独創的・破天荒なおっちゃんらを相手にしているミチヨさんの懐の深さはすごい。私も、本当に困っていた時に手を差し伸べてもらい、命拾いしたことがある。
ヤマダくんは、今日生きててよかったーと繰り返し言っていた。かみしめるように、またキラッキラの笑顔で。人が元気になれるのは、きっとこんなシンプルなこと。安心できる場所で、心ほどけるひとときがあればやっていける。


ごはんのおいしさは、大きな兄さんと弟がお店を去った後、今度は私が語り部となって、次にやってきたおっちゃんにしかと伝えた。


(写真提供:ごはんの弟)

f:id:harumasu:20211228160014j:plain

自転車 Season 2 - 皐月

5月の湖東は、ほのかに甘い風の香りがする。
収穫期を迎えた麦。風に身を任せて揺れるわ揺れる、スウィングしまくり。バックバンドは鳥のさえずり。一緒に踊ろっかな。こんな広大なステージはそうないで。

f:id:harumasu:20211228161326j:plain



黄金色の麦畑が広がる十字路が休憩地点。地面に寝っ転がって目を閉じ、自然の音を聞くのがマスターのいつものスタイル。土台にあるのはジャズ。なじみのジャズ喫茶のマスターによる「俺の道」サイクリング in 滋賀のシーズン到来。

 

f:id:harumasu:20211228161415j:plain


深夜のサイクリングで「田毎(たごと)の月」を見たのが昨年5月。水田に写りこむお月さんの数々に息を呑んだ。湖を埋め立ててできた田んぼは、さえぎるものがなくて、カエルの声の響きが街中とは違う。自然の音からジャズを感じ取る聴き方を、マスターと自転車に乗るようになって知った。


軽やかにいざない、
ふと目の前に現れる光景に、
思いがけない感動がある。
即興の凄み。

 

f:id:harumasu:20211228161348j:plain

 

今宵は雨降り、なのにお月さんが顔を見せた場面が何度かあった。
雨が上がって、夜更けの散歩。田んぼにはカエルバンド。ベース担当は低音のガマガエル。セッションには欠かせない存在で、マスターもジャズシンガーのタケウチさんも、まずはガマガエルの声を見つけにいく。


暗闇に佇み、耳が大きくなっていく。目を閉じて、辺り一帯に響き渡るカエルの声に集中していたら、ふいに空から高音が降ってきた。
鳥がセッションに入ってきたぞ。
姿は見えない。音で夜空に弧を描くように飛んでいる。その瞬間、今いる地球のレイヤーが変わった感じがした。普段は眠っている感覚が開いたのか、耳が鋭敏な気がする。
ジャズのルーツにある「アフリカのリズムは、こんな自然の音の中で生まれたんと違うかな」


滋賀で、アフリカの原初的な音に思いはせる。
「自然の音はいつまでも聴いていられるな」

マスターは「空っぽになって」、タケウチさんは「カエルになった気分で」自分がライブに臨む姿勢と重ね合わせていた。


19歳でジャズ喫茶を始め、74歳を迎えたマスター。真夜中に自転車に乗り、カエルの声を聞き始めたのは40歳から。何度も道に迷い、転びながら見つけた「俺の道」を今、案内してもらっている。


その道は、誰にも真似できないマスター独自のもの。
走る背中は、とても軽やか。
空っぽの境地は、こっち。

 

f:id:harumasu:20211228161319j:plain

f:id:harumasu:20211228161336j:plain

こわれても土に還る

大見村を再訪した。京都市内にある、廃村になった村。

f:id:harumasu:20211228184402j:plain

もと住民の子孫の藤井康裕さんが移住し、もう一度、人の集まる新村としてよみがえらせたい、という藤井さんの思いを核にして有志が集って「大見新村プロジェクト」が始まったのは2012年。


私は以前「パンを育む畑WS」というイベントに参加したことがある。開墾するのに雑草を抜くところから始まり、麦を植えて石窯を作り、収穫して挽いて粉にしてパンを焼いて食べるという過程がシリーズで組み立てられていた。

ふまれて、強くなる麦 - harumiday_桝郷春美のブログ (hatenablog.com)


今日は、約6年ぶりの再訪だった。以後イベントでなくても、この場所が好きな人たちによって地道に営みが続けられてきたことを、現場の風景に身を置いて実感した。


麦を植えた場所には、今は毎年レモングラスが栽培されている。植え付けが行われた今日も、いい香りがした。皆で作った石窯も痕跡があった。石に苔が生えている。「こわれても土に還る」と講師のゆうきさんが言っていた通りになっていた。これが、ゴミにならないものづくり。


あの時参加した麦のイベントは、決して一過性のものじゃなかった、と今思う。


ふまれて強くなる麦のたくましさ。

それは、縁あってこの地に関わった/関わっている人たちも、それぞれに麦のようであるかもしれない。麦、そして講師のゆうきさんが示してくれたことのかけがえのなさを改めて思う。


今回の再会と再訪で、DIY-Do It Yourself精神に触れた。今日受けた刺激をこれから自分なりに育んでいきたい、ほのぼのと。

 

f:id:harumasu:20211228184243j:plain

 

カラスの絵描きさん

カァと鳴かないカラスがいると教えてくれたのは、ジャズ喫茶でたまたま隣になったおっちゃん。


おっちゃんは絵描きさん。コモリさんという。
白いハット、両サイドにふわっと広がる白髪ヘア、グレーのスカーフを巻いて、白いロングシャツにカラスのシルクスクリーンのプリント。かっこええ。遠目にも、ただものではない感が漂う。今日の格好は「みんなもらいもん」らしい。コモリさんは覚えてなさそうだけど、前にもカウンターでお会いしたことがある。


ジャズ喫茶のマスターご夫婦が世界で著名なピアニストAbdullah Ibrahimさんを招へいした時、コモリさんもコンサートスタッフとして関わった。マスター夫妻とお店のお客さんたちが手弁当でコンサートを作り上げた現場に感銘を受けて、コモリさんは人との関わり方を見直したという。それで「今は若い人たちにお世話してもらってる」と、以前話していたのを思い出した。


どうしてそんな風になれたのか、謎だった。今日カウンターで再会して、若い人たちが慕う感じが何となく分かる気がした。


私たちの会話は、カラスから始まった。
コモリさんが写生をしてたら、瀕死の小ガラスが寄ってきた。お腹が空いて飛べへん。急いで牛乳とパンを買いに行った。くちばしを何とか開けて食べさせようとした。
小ガラスは喉の奥まで突っ込まんとあかんけど、僕は母ガラスみたいに長いくちばしがないから、そこまで届かへん。飲み込む場合と飲み込まん場合がある。巣から落ちて親に見放されたら生きてくのは難しい。カァと鳴くのも飛び方も、教えるもんがおらんかったらできひん。子どもの頃から、巣から落ちたひな鳥に出くわすことが多かったという。


街中で暮らしながら、自然界のことをよく知っている人。話しながら、お茶目な笑顔がはじける。話はカラスから、絵描きの世界へ。「コモリさん、物知りやろ。でもテレビもラジオも新聞もネットも携帯も持ってないねん」とミチヨさんが教えてくれた。


出た、新たな謎。この謎が、人を惹きつける魅力じゃないかと思った。
帰り際、コーヒーチケットにペンで何か書いている様子。のぞいてみると、名前ではなく、まねき猫を描いていた。


おっちゃんは絵描きさん。本業は水墨画家。
物知りで、謎が多く、お茶目な人。
それが今日の印象となった。

雑誌掲載:『AERA』「はたらく夫婦カンケイ」

週刊誌『AERA』5/3-10合併号の「はたらく夫婦カンケイ」、写真をはじめ面白いページになっていると思います。


取材させてもらった大関はるかさんと山見拓さんは、有限会社ひのでやエコライフ研究所で働く同僚。家族という「チーム」を作る考え方、交際無しに結婚のハードルを下げる「ポテチ婚」観は痛快です。チームメイトとしての繊細かつ絶妙なバランス感覚は、夫婦に限らずとも人と大切に関係を作っていく上で見習いたいです。


撮影は楠本涼さん、場を開く力がさすが。独創的なスペースの撮影を許可してくださった大家さんにも感謝。GW合併号のため、掲載号は5/9まで2週間店頭に並びます。


✳︎ お二人が働く会社はこちら。個人から事業規模まで、エコライフに興味がある方はどうぞご覧ください。

https://www.hinodeya-ecolife.com/


ボードゲーム「みんなのごみ」(京都環境賞佳作)、面白そうです。

 

f:id:harumasu:20210501130201j:plain

 

*ウェブ転載記事(5/14追加)
https://dot.asahi.com/aera/2021050600042.html