桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

明暗とは異なる黒の世界

Reminders Photography Stronghold京都分室パプロルへ。町屋の内部を解体し、ギャラリーにするのに改装工事が進んでいる。柿渋とベンガラを使った天井塗りに参加した。


この作業が、ほんまに気持ち良かった。手を動かすうちに黒に吸い込まれていき、雑念が飛んで無心になった。柿渋は、渋柿を発酵・熟成させた100パーセント天然素材で、抗菌作用があるそう。体にやさしいのは扱ってみて実感した。木の内装塗装には、柿渋をおすすめしたい。


午後からは家族グループが合流。機動力がすごかった。2時間弱で入口付近の天井一面塗り終えた。「もっと塗りたい」と子どもも夢中に。板をキャンバスに、塗料を絵の具にして描かれた作品もできた。すでに、あらゆるものづくりが繰り広げられている。
ライブ配信から始まり、塗装、語らい、賑わいと、さまざまなレイヤーの中にいた一日。


改めて天井を眺める。「この黒は暗くない。静けさがある」と青島さんが言った。そう、だから終日心地よく塗っていられた。


明暗とは異なる、黒の世界がここにはある。この漆黒がギャラリーオープン後にどんな写真空間を醸していくのか、今から楽しみだ。

 

ある夕ぐれの時

「夕ぐれの時はよい時。
かぎりなくやさしいひと時。」
以前、友人に教えてもらった堀口大學さんの詩の一節をふと思い出す。行くなら今日だと思い立ち、再び水無瀬へ向かった4月14日。阪急電車の改札を出ると、聞こえてくる町の音が違う。いろいろな候補者の名前が耳に入ってくる。景色も違う。右に出ても左に行っても、色とりどりの看板を掲げた選挙カーが走っている。

 

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すえおか友行さんと仲間の方々を発見。島本町内をまわって、駅に着いたばかりのタイミングだという。夕ぐれから夜まで、現場で傍に居させてもらう。仲間の一人もマイクを取って話していた。夕方に帰ってくる人たちは疲れている。できるだけ心配りをしながら、道行く人の姿を見て、その瞬間に届く言葉を探している様子。生きた言葉って、こうして作られていくんじゃないかと思った。

事務所に行ってみる。人が出払ってもなお、熱気が立ち込めている。限られた時間の中で何ができるか、精一杯考えて行動する。人から放出されている、そんなエネルギーが空間にも充満している感じがした。

再び、駅へ。近くには、録音されたフレーズを延々と大音量で流している他の候補者も。ふむ、肉体的には省エネ。キャッチーな言葉をリズミカルに語る口調。人の脳に残りやすい仕掛けがあるのか、音の洪水にのまれそう。エモーショナルな言葉使いは意図的なのだろう。冷静さが必要だ。言葉に乗せて伝えるとはどういうことかを考える。

仕事帰りにせわしなく通り過ぎる人、バス待ちの間に演説の声の方へ顔を向けている人、チラシを受け取る人、受け取らない人、選挙権のある人、ない人、遠くから手を挙げてあいさつするおっちゃん、ゆっくりと自分のペースで歩くおばあさん、選挙というフィルターを通して、町の中の生活者一人ひとりの存在が際立って見える。

 

帰り、駅前の本屋さんへ。いつ来ても、ほっとできる場所。ここにも言葉がいっぱい。その時々の状態によって、いつも何かしらの本に出会える。ここで見つけた言葉は、やさしくてたくましいんだ。久しぶりに再会した人と、おしゃべり。勝った人も負けた人も手を取り合っていけたら、100パーセント思いどおりになんてならへんから3割ぐらいがいい方、あとは違いを認め合う、みんながそうやっていられたらいいのにな。そんな話になった。

会話の後、ふいに本棚を自分の目の高さではなく、しゃがんで見てみたくなった。ヤンキー座りになって目線を落とす。すると最下段の本が気になり、それを見るために足元の地面スレスレに頭を近づける。そしたら、これだ!という本2冊に出会った。家に連れて帰ることにした。

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友人が選挙に関わるということで、町の人間でなくても自然とその町に足が向くように。そうするうちに選挙が、ぐっと身近に感じられるようになり、今まで抱いていた選挙のイメージが変わっていっている。さらには「境界」にある町の特性について、興味を抱き始めている。


無所属で町政に初めて挑戦している、すえおかさんをはじめとした仲間たちの行動によって、何かの振動が起こり、種まきがされている感じがする。それは、4月18日の投票日で終わらないものだろう。

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「リアル『ONE PIECE』みたい」と

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友人のパートナーの、すえおか友行さんが町長選に立候補、手伝いに島本町へ。京都との境界にある大阪府三島郡島本町。水と緑が豊かな地、守っていけるかどうかは、今が瀬戸際にあるという。
前回はポスティングを、今回は手作りポスター制作を手伝った。
レタリングが得意な人と組んで、私は絵の具で色塗りを。その方は、手書きでスラスラーっと、遠くからでもよく見えてバランスのいい文字を描ける人。何だこの特殊技能は! 視覚に訴える言葉の力、効果的な色使いを教えてもらう。

事務所の空間は、竹を切って持ち込んで柱を組み、電気の線を通し、入居当初に壊れていた水道が修理されている。天井は、持ち寄りの布でパッチワークみたいに彩られて、温かみのある空間になっている。みーんな、友人たちの協力による手作りだという。事務所の看板は「みんなのまち、しまもと」。

 

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その看板通り、半日いただけで、近くから遠くから様々な人が行き交った。自発的に、それぞれが来れる時間にできることをやって去っていく。
お金では買えない、かけがえのないものが育まれている場だと感じた。
「僕の人生より道ばっかりしてきた。その道中で出会った仲間たちが今、集まって、力を貸してくれている。リアル『ONE PIECE』みたい」と、すえおかさんが話していた。
今、島本町で起きている事態は、他の町にも起こりうること。すえおかさんの選挙活動と、その過程で育まれているものは、選挙でなくても参考にしたい知恵がたくさんある。
選挙日は、1週間後の4月18日。
町の人でなくても注目しておいた方がいい動きだと思う。

「オモイの可能性を知る」

重さ約2トン、長さ20メートルのコンクリート製のオンバシラ(御柱)がある。ワークショップで手作りされて、約100人がかりでニュータウンの中を運ばれていく記録映像を見た。

作る、運ぶ、奉納する。その過程を、映像と写真で見せる映像記録展「東ときわ台5丁目1号公園のオンバシラの記録を地域に手渡す」が、豊能町大阪府)にある町立図書館で開催されている。

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ふと気づけば、4時間その場に居た。そのうちの3時間は、映像に見入った。どうしてそんなに見入ったのだろうか?
それは、重かったから。
なんじゃらほい。

そもそも人間は重力のある世界で生きている。とてつもなく重いものを力を合わせて動かそうとする時に発揮される、人間の底力が映像のあちこちに見えたから。超人的なものは何もなくて、もうみんな顔をゆがめながら、歯を食いしばって、汗をかき、かけ声をかけながらいくつもの難局を乗り切っていた。音声のないその映像には、表情や体の動きや気配で語られていることがたくさんあった。

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一緒に見た人とおしゃべりしながら、実際に参加した人が語り部になって実況中継してくれるという鑑賞の仕方で、いつの間にか自分も参加している気分になって入り込んでいた。

その場に居合わせた人たちが力を合わせて、ただひたすらに運ぶ。
一人では決してできないことに挑む現場には、とてつもない力が生まれていた。

その後、残念な結末を迎えたオンバシラ。伊勢大神楽による奉納のシーンを見て、心が洗われた。もう二度と同じことはできないであろう試み。その意味でも貴重な記録だ。誰かと語らいながら見るのがおすすめ。4月18日(日)まで。

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自転車 Season 2 - はじまり

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「3月29日、まずはナイトウォークから始めるで」。なじみのジャズ喫茶で告知があり、1カ月以上前から日程をキープ。いきなり自転車には乗らずに、まずは夜のウォーキング in 滋賀。


満月の翌日、十六夜
満開の桜。
状況だけで満ち足りる。


「行きまっせ」。マスターが先導して、夜の道を歩き始める。
「始めと終わりは決まってて、あとはテキトーやねん。面白そうな道を見つけたらどんどん行く。ジャズと一緒」

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住宅街を抜けて、即興で案内してもらったルートは、土の柔らかな感触の田んぼのあぜ道だったり、傾斜をおしりですべり降りたり、片足幅のコンクリートのブロックを平均台のようにバランス取りながら渡ったりと、道かどうか定かではない、自転車では行けない場所もあった。しかも夜、マスターと一緒じゃないと行けない道。


「道は作んねん」
いつだって、それを体現しているマスター。
オレの道を作る
ーーそこに通底しているジャズ。


コミュニティができる、関係が育まれる
ーー共にお店を作ってこられたミチヨさんの懐の深さと、お客さんのユニークさ。


そこには上も下もない。
滋賀の平野みたいにフラットだ。


夜中1時、起きている人たちで再び近所を歩く。シンと静まる、無音に近い状態が心地いい。鎮守の杜では水が流れる音が、田んぼではカエルの声が、それぞれ辺りに響いていた。カエル、早くね? おたまじゃくしは? 桜の開花と同じく、今春は自然界の進度が早い。


初めは雲に見え隠れしていたお月さんが、深夜になると空高く、くっきりした輪郭を見せて輝いている。街灯がない所でも、月明かりで影ができる。月の光を浴びながら歩く。

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「こうして五感を研ぎ澄ます時間は必要」
そう話す、ジャズ・シンガーのタケウチさん。共感した矢先、「これはウォーミング・アップやで。本番は明日。『花よりお肉』やから」と。肉が大好物のタケウチさんは、自身のライブ前の緊張感と同じ状態で、翌日の焼肉に臨んでいた。


そんなこんなで春がやってきた。いよいよ今シーズンのサイクリング in 滋賀が始まる。

 

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まち歩き演劇『忘れじの朝』

チンチン電車で、大阪・堺へ。
集合場所は、さかい利晶の社。
天気予報は雨。ところが上演開始前に青空が広がった。

 

まち歩き演劇『忘れじの朝』に参加。鑑賞というより、体感としては参加と言った方がしっくりとくる。歌人与謝野晶子さんが生まれ育った堺のまちで、ゆかりの場所を巡りながら上演が行われた。

 

www.sakai-rishonomori.com


まちを歩きながら上演って、どうやって?
素朴な疑問を持っていたのは私だけじゃなかった。参加者の皆さんがそうだったみたい。主催の方々も、そんなHowを見つけ出す所からのスタートだったという。その方法に正解はなくて、試行の色合いが強い第一弾を見届けられたという意味でも面白い時間だった。


座席がない、セッティングされた舞台がない、歩いて移動し、各地で物語が細切れに繰り広げられる。新鮮な感覚だった。二つの異なる時間が同時に動いていく。物語は明治期、歩く舞台は現代。


リアルなまちが演劇空間になるってすごいことだ。上演のために整えられた舞台はない。おかまいなしに信号は変わるし、鳥は飛ぶし、人や車が行き来する。通行人が立ち止まって見ていたり、商店街ではお店の人が出てきて拍手していたりも。そんな即興の出来事が面白い。作・演出の高橋恵さん(虚空旅団)自らがいざなって、行く場所行く場所に見えない舞台のラインができる。舞台って自在なんだな。


境目がなくなる。
時間も空間も。
現在の時間の流れに、物語の時間が小さなポケットみたいに現れ、その中に観客は前のめりに入っていく。そうしないと、まちの現実感に引っ張られそうになるから。その意識は、昔の痕跡が消えて見えなくなる土地の記憶を、想像して見ようとする感覚と重なるように感じた。


堺のまちには与謝野晶子さんの歌碑がある。まち歩き演劇の取り組みにおいて、その晶子さんが遺した言葉が、土地と物語をつなぐ礎になっていた。そこを「忘れじの朝」では丁寧にすくい上げている印象を受けた。


演劇でいざなわれた、まちを観るフィルターで、まち歩きをするのは面白いと思う。そして、まちに飛び出した演劇の可能性をこれからも見ていきたい。

 

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※「第1回だいとう戯曲講座」体験リポート(2016年、大阪府大東市を舞台に上演するという実験企画「だいとう戯曲講座」に筆者自身が受講生として参加して、物語が立ち上がる過程を連載した記事。講師:高橋恵さん〈虚空旅団〉、プロデューサー:山納洋さん〈大阪ガス株式会社〉)

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