桝郷春美のブログ

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フリーランスのライターです。執筆記事や日記など。

「ハートの問題や」

写真はハートを背負ったカメムシ。参加者の中で最年少の6歳児が発見した。

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今朝は人里を抜けて、水源近くへ。
山の中を移動した。鮎とイワナの卵の放流のために。
小雨の中、朝7時半に出発して、各地の川の上流へ。いくつも車が連なり、川沿いに山道を上がっていく。新たな命を川の中に迎える瞬間にたくさん立ち会った。すべて含めると、その数は約3000。


車で走れるぎりぎりの状態のガタガタ道も。
「進む? この先はハートの問題や」
リーダーが私たちの車に駆け寄って尋ねる。
即答で進むことに。


なるべく安全に育つには、人間からも動物からも離れた場所へ。おのずと山の奥の方へ入ることになる。時に、車で水しぶきを上げながら川も横切った。ジープなどではない、普通の軽自動車で。


私が見たのは、雅な京都ではなく、野生の京都。
自然も、人もそうだ。
リーダーのかけ声のもと、皆が手際よく進めていく。「よし、次行くぞー!」息つく間もなく、次へ、次へ、小刻みに動く。
そうだ、私たちは命を運んでいるんだ。
新鮮なまま、水の中へ。
威勢のいい卵は、眼がクルクル動いて元気いっぱい。
生き生きしているのは人も同じ。
自分でない命に関わることの壮大な広がりを思う。


いつの間にか雨が止んで陽光が差し込んだ。
眼の前にぶっとい虹が現れた。
街中で見上げるそれが、山では正面に現れた。虹の中を通り抜ける。


「次が最後や」という声が聞こえたのは、午後2時すぎ。朝から6時間半、移動の連続もこれで終わり。
川の中に石を集めて作る、卵のお家。水の流れ、石の大きさや配置、紫外線が当たらないようにと細かな注意点があり、家作りは熟練者でもなかなか難しいそうだ。石と石の間に卵が隠れていったのを見届けて、「最後は上手くいった」とリーダーは満面の笑み。


子どもの頃から川に親しみ、川の中の生き物を思いやって歳を重ねるその方は、肝っ玉がすわり、とてもやさしい人に見えた。
「ハートの問題や」
その人が口にしたハートという言葉の意味が、幾重にもなって、後から後から心に響いてきた。