「ありがとうな」

先日、81歳の現役の方にインタビューを行った。定年までの42年は手染めの職人して、定年以降は培った技術を教える仕事を21年、通算63年、手しごとの道を歩んでこられている。
自らの歩みをじっくりと語るインタビューを受けたのは初めてらしく、事あるごとに「ありがとうな」と何度も言ってくださる。
「記事が出来上がったら、僕の棺桶に入れるわ」と本気なのか冗談なのかわからないことをおっしゃる。
インタビューの時間だけでなく、その後のやりとりで、普段はとても穏やかなその方の、心の中の火に触れた感じがした。言葉に対する粘りから、そんな感触がした。
これまで、心の根っこに火を灯し、絶やさずに焚き続けてこられたのだろう。火があるから、穏やかにいられるのかもしれない。
それはたやすくできることではないけれど、実際に日常生活の中でそう感じさせる方に出会うと、そんな在り方を目指したくなる。
その方からの「ありがとうな」は、とても心に沁みるから。