ここでしか味わえないもの

駅の改札を出て、地図とにらめっこ。先月、一人立ちした沖縄小料理屋さんに再訪。暗い帰り道を一人歩かないといけないハードルさえ越えられたら...ほかに手立てがないのかと地図を眺めてみる。別方向から行ってみよう。広くて明るめの道を見つけた。これで大丈夫。
意気揚々と店内へ。カウンターには地域の兄さん方がズラリ。一瞬怯むも、ママが温かく迎え入れてくれた。もうすぐタクシーが来るからと、席を空けてくれようとする少し強面の兄さん。地元の人やし、タクシーなんてほんまは呼んでいない。そのうち、18歳の男の子が来店。「おめでとう」と、口々に声をかけられている。昨日、子どもが生まれたそうだ。
調子よく飲食していたら、ふいに酔いが回ってきた。自分でも気づかなかったけど、体調が万全ではなかったようだ。申し訳ないと思いつつ、少しうつ伏せになる。隣の兄さんが、あまりにも気持ち良さそうに熟睡しているものだから、安心してそこにいられた。
前と同じ方が、去り際に再びタクシーチケットを置いて帰られた。また厚意に甘える結果に。
店を後にする時、「わしの顔を覚えとって」と、兄さん方が手を差し出す。迷わず応える。まっすぐ目を見て、力を込めて握る手。明朝5時から仕事の人も多い。
ここでしか味わえない空気が確かにある。それはきっと人情なのだけれど、それだけではない。生きている実感をくれる場所。かけがえのない場所。ああ、まだ言葉が追いつかねえ。